2008/04/11
春、ボクは桜のじゅうたんの上で
中学時代からの親友のお父さんが亡くなった。
優しいやさしい人だった。
毎日親友の部屋に入り浸り、未成年でありながらタバコばっかり吸っているボクらに直接注意するでもなく、ある時、部屋に遊びにいくと「火の用心」とだけ書かれた張り紙があったっけ。
高校を出て間もない頃にパチンコ屋さんにも連れて行ってもらったなぁ。
誰よりも家族思いの親友は大丈夫だろうか?
心配になり、スケジュールはタイトであったが、朝の新幹線に乗り込み日帰りで姫路に帰る事に。
が、東京はダイヤの乱れが激しく予定の新幹線より1時間も遅れ乗車。
窓を見ては思い出を振り返り、時計を見ては気持ちが焦りを繰り返し、ボクは新幹線に揺られていた。
姫路駅に降り立った時、やはり雨が降っていた。
慌てて葬儀場へ。
式から1時間遅れ。
到着した頃には終わっていた。
係の人に「もう火葬場に行かれました。少しここでお待ち下さい」と言われ、ボクは所在なしでただ立ち尽くしていた。
ふと空を見上げると煙が上っていた。
ボクの通っていた中学のすぐ隣の葬儀場。
野球部の練習中、何度もこの火葬の匂いを嗅いだっけ?
あの頃は大嫌いだった火葬の匂い。
どんな匂いだったかな?
ボクは少しだけ息を強く吸いこんでみたけど、雨が味付けをしたアスファルトの匂いしかしなかった。
そうこうしているうちに親友や親族の方が帰ってこられた。
7歳くらいだろうか?先頭の少年は泣いている。
「わーーーん。おじさんどこにいったん?」
お母さんらしき人が「おじちゃんは空にいったんや。いつでもみんなを見守ってくれるんやで。けがせーへんようにとかな。晴れた日には会えるで。」と説明していた。
それでも少年は泣き止まない。
子供ながらにもう会えない事が分かっているのだろう。
親友と目が合った。
「来てくれてありがとう」と久しぶりの再開。
「9月頃にガンが見つかって・・・」とタバコに火を付け出した。
とぎれとぎれの会話。
ボクもなんとか細切れの言葉をつないでしゃべったが、なんて声をかけていいか分からなかった。
言葉を探していた。今彼にかけてあげるべき言葉を。ボクが言葉を探し目線を泳がしながら無言でいる間にどれくらい時間が経っただろう、と親友の方を見るとまだタバコの半分も燃えていないくらいだった。
時間は本当に同じだけ流れてるのだろうか?
楽しいときはあっという言う間で、悲しい事やマイナスな時にはいつだって長く感じる。
沈黙に気を遣い親友が「泊まるんか?」と聞いてきた。
「いや、日帰りで帰ろうと思う。泊まっていこうかなともちょっと考えたけど」というと、親友は切なく笑いながら「泊まったり」と言った。
ボクは思わず「あっ」と言葉が漏れた。
「オレ親父が倒れた時に分かったわ」彼はそれ以上しゃべらなかった。
顔だけでも見せろ!とよく親父に言われた事を思い出した。それが親孝行になるのかどうか分からないが、親友の「泊まったり」という親側に立った言葉を聞いて、彼はもっと親にしてやりたかった事があったんだろうなぁ、でも、もう叶わないんだなという後悔の念にも似た思いがひしひしと伝わった。
ボクは思いをすべて込めてありきたりの言葉をかけ、親友と別れた。
帰り道、ふと思い立ち、中学校の前を通ってみる事にした。
親友と出会った中学校。
あの時はこんな日が来るなんて思いもしなかったな。
親も学校も絶対で。
明日も絶対にやって来て。
ただ日々の中で自分の事だけに一生懸命になれば良かったあの頃。
長い坂の上にある中学校。
そのうねるような曲線の坂道は、雨で桜の花びらが地面に落ち、じゅうたんのようになっていた。
ボクは曲がりくねったその絨毯の上を歩いていった。
まるで自分の人生の坂道をのぼるように。
そう、これが人生の坂道だとすれば中学校があるあたりがボクの人生のゴールなのだろう。
そう思ったときふと思った。
このじゅうたんは、つまりボクの未来はどこに行くのだろう。
未来というよりもボクはやがて来る死の方向に進んでいるようにも見えた。
それでもボクは坂をのぼった。
できるだけゆっくり、出来るだけ顔を上げて。
雨は相変わらず小雨のまま、アスファルトと桜の匂いを混ぜた風が流れていた。
ボクはもう一度だけ息を強く吸いこんでみた。
そうか、もう春なんだな。
優しいやさしい人だった。
毎日親友の部屋に入り浸り、未成年でありながらタバコばっかり吸っているボクらに直接注意するでもなく、ある時、部屋に遊びにいくと「火の用心」とだけ書かれた張り紙があったっけ。
高校を出て間もない頃にパチンコ屋さんにも連れて行ってもらったなぁ。
誰よりも家族思いの親友は大丈夫だろうか?
心配になり、スケジュールはタイトであったが、朝の新幹線に乗り込み日帰りで姫路に帰る事に。
が、東京はダイヤの乱れが激しく予定の新幹線より1時間も遅れ乗車。
窓を見ては思い出を振り返り、時計を見ては気持ちが焦りを繰り返し、ボクは新幹線に揺られていた。
姫路駅に降り立った時、やはり雨が降っていた。
慌てて葬儀場へ。
式から1時間遅れ。
到着した頃には終わっていた。
係の人に「もう火葬場に行かれました。少しここでお待ち下さい」と言われ、ボクは所在なしでただ立ち尽くしていた。
ふと空を見上げると煙が上っていた。
ボクの通っていた中学のすぐ隣の葬儀場。
野球部の練習中、何度もこの火葬の匂いを嗅いだっけ?
あの頃は大嫌いだった火葬の匂い。
どんな匂いだったかな?
ボクは少しだけ息を強く吸いこんでみたけど、雨が味付けをしたアスファルトの匂いしかしなかった。
そうこうしているうちに親友や親族の方が帰ってこられた。
7歳くらいだろうか?先頭の少年は泣いている。
「わーーーん。おじさんどこにいったん?」
お母さんらしき人が「おじちゃんは空にいったんや。いつでもみんなを見守ってくれるんやで。けがせーへんようにとかな。晴れた日には会えるで。」と説明していた。
それでも少年は泣き止まない。
子供ながらにもう会えない事が分かっているのだろう。
親友と目が合った。
「来てくれてありがとう」と久しぶりの再開。
「9月頃にガンが見つかって・・・」とタバコに火を付け出した。
とぎれとぎれの会話。
ボクもなんとか細切れの言葉をつないでしゃべったが、なんて声をかけていいか分からなかった。
言葉を探していた。今彼にかけてあげるべき言葉を。ボクが言葉を探し目線を泳がしながら無言でいる間にどれくらい時間が経っただろう、と親友の方を見るとまだタバコの半分も燃えていないくらいだった。
時間は本当に同じだけ流れてるのだろうか?
楽しいときはあっという言う間で、悲しい事やマイナスな時にはいつだって長く感じる。
沈黙に気を遣い親友が「泊まるんか?」と聞いてきた。
「いや、日帰りで帰ろうと思う。泊まっていこうかなともちょっと考えたけど」というと、親友は切なく笑いながら「泊まったり」と言った。
ボクは思わず「あっ」と言葉が漏れた。
「オレ親父が倒れた時に分かったわ」彼はそれ以上しゃべらなかった。
顔だけでも見せろ!とよく親父に言われた事を思い出した。それが親孝行になるのかどうか分からないが、親友の「泊まったり」という親側に立った言葉を聞いて、彼はもっと親にしてやりたかった事があったんだろうなぁ、でも、もう叶わないんだなという後悔の念にも似た思いがひしひしと伝わった。
ボクは思いをすべて込めてありきたりの言葉をかけ、親友と別れた。
帰り道、ふと思い立ち、中学校の前を通ってみる事にした。
親友と出会った中学校。
あの時はこんな日が来るなんて思いもしなかったな。
親も学校も絶対で。
明日も絶対にやって来て。
ただ日々の中で自分の事だけに一生懸命になれば良かったあの頃。
長い坂の上にある中学校。
そのうねるような曲線の坂道は、雨で桜の花びらが地面に落ち、じゅうたんのようになっていた。
ボクは曲がりくねったその絨毯の上を歩いていった。
まるで自分の人生の坂道をのぼるように。
そう、これが人生の坂道だとすれば中学校があるあたりがボクの人生のゴールなのだろう。
そう思ったときふと思った。
このじゅうたんは、つまりボクの未来はどこに行くのだろう。
未来というよりもボクはやがて来る死の方向に進んでいるようにも見えた。
それでもボクは坂をのぼった。
できるだけゆっくり、出来るだけ顔を上げて。
雨は相変わらず小雨のまま、アスファルトと桜の匂いを混ぜた風が流れていた。
ボクはもう一度だけ息を強く吸いこんでみた。
そうか、もう春なんだな。
Category
■ 曲解説 (7)
Recent Diary
Recent Photo
2017/06/19 :: アコースティックCD
!!$photo1!!
!!$photo1!!
2016/04/13 :: ありがとう親父
!!$photo1!!
!!$photo1!!
2016/03/19 :: 千葉LOOKの楽屋にて
!!$photo1!!
!!$photo1!!
2014/12/25 :: ソロワンマンを終えて
!!$photo1!!
!!$photo1!!
2014/10/27 :: SONYのMDR-CD900ST
!!$photo1!!
!!$photo1!!
2013/02/14 :: 大阪青春物語「女優魂」
!!$photo1!!
!!$photo1!!
2013/02/11 :: 大阪青春物語
!!$photo2!!
!!$photo2!!
2012/07/02 :: 侠気には侠気を!だろ?
2012/02/17 :: 路上ライブは新宿から渋谷に変更です。
!!$photo1!!
!!$photo1!!
2011/12/06 :: Gibsonハミングバード
!!$photo1!!!!$photo2!!
!!$photo1!!!!$photo2!!
all photo

